平成23年6月 新作刀展を二つ見てきました

 今年も展覧会の季節が来ましたが、例によって2つの団体が時期をずらせて別々に展覧会を開催しています。どちらもちゃんと見たい私にとっては困った問題で、1週間あけて2度東京に行くか、他の用事も済ませつつ4〜5日東京に滞在して両方を見るか、いずれにしても出費がかさむので、頭の痛い所です。

平成二十三年度の新作名刀展

 最初は6月某日、刀剣博物館で開催中の「平成二十三年度の新作名刀展」を見に行ってきました。

 今年も出品作品は少なく去年並みで、太刀と刀が23口、短刀と脇差が12口、刀身彫刻3口、彫金25口となっていましたが、それでも見所はそれなりに有りました。

 太刀と刀の部門では杉田さんの平身の刀の出来が素晴らしく、また、いつもながらですが、古川さんの見事な地鉄や、松葉さんの豪壮な太刀、松田さんの大包平写しには圧倒されました。ただ今回は展覧会前日の勉強会には来る事が出来なかったので、入賞した作品を手に取って見る事は出来ませんでした。ガラス越しに作品を見るのは何とももどかしく、やはり刀は手に取って見ないと本当の所はよくわからないですね。

 それから、今回の出品者の構成を見ると作刀の部の無鑑査が11人、太刀と刀の部の出品者が14人の計25人で、去年とほとんど変わらず、これではとても良いバランスとは思えませんね。また展覧会の作品集も写真が良くなく、地鉄はおろか、刃中の働きもほとんど見えず、印刷精度も低く、何の為の作品集か訳が分かりません。それにこの作品集の値段が去年より高い1600円です。この辺はもっと改善すべきだと思いました。

日刀保の新作名刀展は7月10日(日)まで刀剣博物館
http://www.touken.or.jp/
入館料 無料

7月15日(金)〜8月3日(水)まで、鶴岡市の至道博物館
http://www7.ocn.ne.jp/~chido/

伝承の技と創造の美 第2回「新作日本刀・刀職技術展覧会」

 さらに翌日、今度はホテルオークラの大倉集古館で開催されている刀文協の「第2回新作日本刀 刀職技術展覧会」を見に行きました。

 こちらは、作刀、刀身彫刻、研磨、刀装具、拵えなど、刀職全般のコンクールで、部門が多いですので、総出品点数は127点に及びますが、今回は作刀の部に限って感想を書いておきます。

 作刀の部は太刀、刀、脇差、短刀総てこみで出品作27口、審査員及び招待出品6口の計33口で、去年の43口からかなり減っています。それに地震対策という事で余裕を持った展示をしたそうで、佳作以下の作品の展示を行っていません。結局、新作刀は短刀、小脇差込みで16口のみの展示で去年と異なり何とも寂しい展覧会となっていました。

 その中で私の目を引いたのは、地元兵庫県の明珍宗裕刀匠が去年の金賞1席に引き続き今年は特選の2席に入っていたのと、同じく兵庫県の高見國一刀匠が金賞2席に入っていた事です。どちらも備前伝が得意で上手ですので頼もしく有りますが、同郷の私にとってはかなり「脅威」ですね。

 新作刀の展覧会としては出品作品自体が少なく、展示してある作品が更に少ないので、入館料まで払ってわざわざ見に行った私としては、かなり拍子抜けの感じは否めませんでした。まあ、研ぎの部門には古名刀が何口も出品して有り、そちらを見て楽しむ事は出来ましたが、新作刀がこれではちょっと先行きが不安です。

伝承の技と創造の美 第2回 新作日本刀・刀職技術展覧会
期間  7月24日(日)まで
会場  公益財団法人大倉文化財団 大倉集古館
入館料 800円
http://www.nbsk-jp.org/japanese/news.html

 今回、二つの展覧会を見てきましたが、団体が分裂して以来、出品する刀鍛冶はどんどん減って来ています。新作刀に限っていえば、双方の展覧会合わせて出品総数68口ですが、両方に出品している刀鍛冶もいますし、日刀保の展覧会は部門別も有りますから、合わせて3口出品している人も居ます。結局実質的な出品者数は双方合わせて50人程度です。去年出品していて今年出品していない人もいますし、また古手の刀鍛冶でも、小脇差や短刀のみを出品している人も多く見られました。

 これほど景気が悪くなると、極一部の人気のある刀鍛冶は別として、普通の刀鍛冶はかなり仕事が減って来ています。その中でレベルの高い作品を作り続ける事はなかなか大変です。そこへ持って来て、今は二つの展覧会に同時に出品するという事になりますから、これは至難の業です。特に若い刀鍛冶は余裕が有りませんから、出品する為だけに刀を作り在庫を抱え込む事は出来ません。結局、双方の展覧会の質自体に影響が及んで来ているのではないかと推測されます。

 はたしてこの様な状況が長く続く事が好ましい事か、私には甚だ疑問です。ただでさえ景気が悪く仕事が減って来ている状況ですから、業界一丸となって難局に当たらなければいけないはずなのですが、状況は今の政治と同じです。業界は、一般の刀を受け入れてくれる人達の方向を向いていなければいけないのですが、実際は自分たちの権益争いをしている様にしか見えないのです。

 例えば展覧会ごとに作る作品集などは、初めて刀を見る人にも刃文や地鉄の様子がよく分かる様な写真を使い、誰でも気軽に買う事が出来る安い値段にする事が望まれますが、展覧会を二つに分散すると、経費は単純に倍近くかかり、結局作品集の価格は跳ね上がります。写真は見づらいは値段は高いはでは、誰の為に作品集を作っているのかわかりません。

 まあ、現状はそれ以前の問題で、分散してしまった力を一つにして、展覧会などの経費を安くして、活動内容の充実を図る方向で行かなければいけないと思うのですが、話しを聞いた関係者の答えはその方向を向いていない様でした。このままでは共倒れになりかねない状況だと思うのですがね。

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